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連載

  時を刻むもの 19



 
しばらく様子を見たが、
結局、その足ではとても涸沢までたどり着けないことを説得した。
「わかったわ、帰りは景色を楽しみながらゆっくりと歩きましょうね。」
思わず安堵のため息が出てしまった。
足の痛みを誤魔化すために、喋り通しで時間をかけ河童橋まで戻ってきた。
「みどりさんと過ごすと、時が刻まれるのってすごく早く感じてしまうんだ。」
「ええ、楽しい時は残酷なくらいにあっという間に刻まれてしまうの・・・
 コロン、私の唇に触れてみて。」
木製のテーブルに肘をつき、広げた手のひらの上にいた。
「こう?」
「手じゃなくてコロンの唇で・・・」
アイスクリームの甘い香り残る唇からは、小刻みな震えを感じた。
 
「コロン、私と一緒に帰らない?」バスに乗る直前、
しゃがみこんで靴の紐を締め直しながらみどりさんは言った。
「・・・もうすぐ長老がやってくる。」
「わかるの?」
「感じるんだ。」
「とても不安だわ、胸騒ぎがするの・・・」
「大丈夫。足、早く治るといいね。」
「ええ、ありがとう。
三日後の土曜日にまた来るから必ず、必ず元気でいてね。」
「うん、みどりさんに後悔させない様にするよ。」
バスに乗り込んだみどりさんの後姿に
自分の吐いた言葉に罪の意識を感じながらも、この地での別れを告げた。
 
心にぽっかり穴が開いたように、すべての気力を失せたまま
梓川の流れをぼんやり眺めていた・・・
 
陽が傾き、辺りが薄暗くなりかけた時だった。
後方に突然気配を感じ、立ち上がり振り向いた瞬間、
意識したわけではないのに自分の体が宙高く舞った。
まるで眠っていた本能が一気に目覚めたような瞬間だった。
両手を広げ、片膝を曲げた状態で仰向けに浮いている。
時の刻みがスローモーションへと移行し、
そのまま首を右にひねり下方を眺めると、
もう一人の自分に向け長老が杖を振りかざしていた。
額の割れた地上の体は、
ゆっくりと、苔むした木の上へ仰向けに倒れていく・・・
次号最終回予定

       蕗の葉下の住人 21年2月14日(土)

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